人の死の告知に関するガイドラインは誰に向けた整理か。「概ね3年」の範囲を確認する
「事故物件」という言葉は、法令に定義のある用語ではありません。日常の会話では幅広い事情をまとめて指しますが、制度の側で整理されているのは、そのうち「人の死」に関する情報をどう扱うかという部分です。国土交通省は令和3年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定し、令和3年10月8日に報道発表を行いました。
このガイドラインを紹介する情報の中には、「3年経てば告知は不要」という短い形にまとめたものが少なくありません。しかし報道発表の原文を読むと、その期間の記載には対象の限定が付いています。この記事では、ガイドラインが誰に向けた整理なのか、期間の記載がどの取引を対象にしているのかを、報道発表の記載に沿って確認します。
読み始める前に、3つの前提を分けておく
- ガイドラインの名称
- 「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」です。名称に「宅地建物取引業者による」と入っている点が、内容を読むうえでの前提になります。
- 位置づけ
- ガイドラインであって、法令そのものではありません。国土交通省は不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会での議論を経て策定し、報道発表は「本年5月から6月に実施したパブリックコメント」を踏まえてとりまとめたと記載しています。
- 告知書等
- 売主・貸主が、物件について知っている事項を記載する書面です。報道発表では、宅地建物取引業者が媒介を行う場合に、売主・貸主に対してこの書面への記載を求めることが、調査の方法として位置づけられています。
この3点を押さえておくと、ガイドラインの記載を自分の状況にそのまま当てはめてよいのかどうかを、自分で判断しやすくなります。
ガイドラインは、宅地建物取引業者の告知の在り方を整理したもの
まず主語を確かめます。このガイドラインは、宅地建物取引業者が取引の相手方に対して人の死に関する事案をどう告げるかについて、現時点で妥当と考えられる一般的な基準を示したものです。名称のとおり、対象は宅地建物取引業者です。
この点を落とすと、「告げなくてもよい」という記載が、売主自身の判断基準として読めてしまいます。ガイドラインの記載は、宅地建物取引業者の告知の在り方についての整理です。売主が買主に対して負う責任の話とは、枠が違います。ここは記事を読み進めるあいだ、繰り返し確認しておく点です。
報道発表では、調査の方法についても記載があります。宅地建物取引業者が媒介を行う場合、売主・貸主に対し、過去に生じた人の死について、告知書等に記載を求めることで、通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする、という整理です。つまり、情報の起点は売主・貸主が書く書面に置かれています。
原則として告げなくてもよいとされている範囲
報道発表は、宅地建物取引業者が原則として告げなくてもよいとされる場合を2つ示しています。1つ目は、取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)です。
2つ目が、期間に関する記載です。ここが最も引用されやすく、同時に最も省略されやすい箇所なので、対象の限定を含めて確認します。報道発表では、賃貸借取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した、自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死が発生し、事案発生から概ね3年が経過した後は、宅地建物取引業者は原則として告げなくてもよい、と整理されています。
読み取れることは2つあります。第一に、この期間の記載は賃貸借取引の対象不動産と、集合住宅の共用部分について書かれているということ。第二に、対象となる死は「自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死」であるということです。
売買について、期間の経過による例外は示されていない
前の章の記載を裏返すと、売買取引の対象不動産について、事案発生から一定期間が経過したら原則として告げなくてもよい、という記載は報道発表には見当たりません。「3年経てば告知は不要」という短い言い回しは、賃貸借取引についての記載を、対象を外して一般化したものです。
自宅を売ることを考えている人にとって、この差は小さくありません。賃貸借の話として書かれた期間を売買にそのまま当てはめると、前提が変わってしまいます。ガイドラインの記載を参照するときは、その記載がどの取引を対象にしているかを、毎回確認する必要があります。
| 報道発表の記載 | 対象として書かれているもの |
|---|---|
| 調査の方法 | 宅地建物取引業者が媒介を行う場合に、売主・貸主に対し告知書等への記載を求めること。 |
| 原則として告げなくてもよい(死因による整理) | 取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)。 |
| 原則として告げなくてもよい(期間による整理) | 賃貸借取引の対象不動産、および日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した、上記以外の死で、事案発生から概ね3年が経過した後。 |
| 告げる必要がある場合 | 経過した期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等。 |
表は国土交通省の報道発表(令和3年10月8日)の記載を基に Real Estate 7 Grid が作成しました。いずれの行も、行為の主体は宅地建物取引業者です。
出典: 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課「『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』を策定しました」(令和3年10月8日 報道発表)(確認日: 2026年9月9日)
期間や死因にかかわらず告げる必要があるとされる場合
報道発表は、告げる必要がある場合についても記載しています。人の死の発生から経過した期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は、宅地建物取引業者は告げる必要がある、という整理です。
この記載があるため、期間の経過だけで話が終わる構造にはなっていません。買主から問われれば、期間は関係しなくなります。売却の場面で「聞かれなければ言わなくてよい」という考え方が成立しないのは、この行があるためです。
「集合住宅の共用部分」という限定の読み方
期間に関する記載には、賃貸借取引の対象不動産と並んで、日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分が挙げられています。共用部分であれば何でも同じ扱いというわけではなく、日常生活において通常使用する必要があるかどうかという条件が付いています。
マンションの売却を考えている場合、この一行は建物のどの場所で起きた事案かによって読み方が変わることを示しています。専有部分の中なのか、通常使う共用部分なのか、それ以外の場所なのか。前の章で挙げた「どこで」を書き出しておく作業が効いてくるのはこの点です。
なお、ここでも記載の主体は宅地建物取引業者です。共用部分の事案について管理組合や管理会社がどのような記録を持っているかは、売主が自分で確認できる情報のひとつになります。
「原則として」と書かれている意味
報道発表の記載では、告げなくてもよいとされる場合に「原則として」という語が置かれています。そして同じ発表の中に、経過した期間や死因に関わらず告げる必要がある場合が並べて書かれています。原則と、その原則が働かない場合が、同じ資料の中に一組で示されている構造です。
片方だけを取り出すと、内容が変わってしまいます。期間の記載を引用するときは、買主・借主から問われた場合や、社会的影響の大きさから把握しておくべき特段の事情がある場合の記載と一緒に読む。これがガイドラインの読み方として素直な形です。
売主として、手元で書き出しておく事実
告知書等に記載する内容を考える前に、自分が知っている事実を時系列で書き出しておきます。書き出す段階では、告知が必要かどうかの判断は行いません。判断と事実の整理を分けることが目的です。
- いつ事案が発生した年月日、または分かる範囲での時期。自分が知った時期も別に書きます。
- どこで建物内か、敷地内か、集合住宅の共用部分か。専有部分の中であれば、どの部屋かまで。
- 何が自分が知っている事実。伝聞であれば、誰から聞いたかを含めて伝聞であると分かるように書きます。
- その後清掃、リフォーム、設備の交換など、実施した内容と時期。請求書や工事の記録があれば控えます。
- 知っている人管理会社、管理組合、近隣、親族など、事情を把握している相手。連絡先を控えます。
この5項目を書き出しておくと、宅地建物取引業者と話すときに、事実として言えることと、確認が必要なことを分けて伝えられます。分からない項目は分からないと書いてかまいません。分からないという状態も、伝えるべき情報のひとつです。
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事実を分けたあとに
告知書に書く事実を整理してから、価格帯を見る
いつ、どこで、何があったか。売主が知っている事実を正確に書く準備をしたうえで、価格帯を確認します。ボタンからはリビンマッチ(リビン・テクノロジーズ株式会社)の外部サイトへ移動します。
リビンマッチの売却査定フォームへ進む業者の告知の話と、売主が告知書等に書く話は、別に置かれている
報道発表で売主・貸主について確認できるのは、宅地建物取引業者が媒介を行う場合に、売主・貸主へ告知書等への記載を求めることで通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする、という整理までです。売主・貸主が何をどこまで書くべきかという基準や、書かなかった場合の売主の責任については、報道発表の概要に記載がありません。
つまり、宅地建物取引業者が取引の相手方に告げるかどうかという論点と、売主が知っている事実を告知書等に記載するかどうかという論点は、別々に置かれています。前者についての「原則として告げなくてもよい」という整理を、売主が黙っていてよいという意味に読み替えることはできません。
売却を考える立場からすると、実務上の出発点は後者です。知っている事実を正確に書く。その先の扱いは、宅地建物取引業者が制度の枠組みに沿って判断します。個別の判断が必要になったときは、宅地建物取引業者や弁護士など、その判断ができる立場に確認します。
宅地建物取引業法にも、告知に関する規定がある
宅地建物取引業法第47条は「業務に関する禁止事項」という標題の条文です。第1号では、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、またはその契約の申込みの撤回若しくは解除等に関して、一定の事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為が禁じられています。
この条文が名宛人としているのは宅地建物取引業者です。売主個人に対して直接この条文が課されているわけではありません。ガイドラインを読むときに、条文の側の主語と、ガイドラインの側の主語がそろっていることを確認しておくと、記載を自分に当てはめすぎる誤りを避けられます。
条文確認: e-Gov法令検索「宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)」第47条(確認日: 2026年9月9日)
ガイドラインの版と、資料の日付を確認する
国土交通省は、ガイドラインの掲載ページに本文と概要資料、賃貸のポイントをまとめた資料を公開しています。ここで注意したいのは、本文と概要資料の日付が同じではないことです。ガイドライン本体は令和3年10月のもので、概要資料には令和6年3月時点の最新版である旨の記載があります。
概要資料の日付を見て「令和6年に改訂された」と受け取ると、内容の理解がずれます。参照するときは、本体の日付と、資料そのものの日付を分けて控えておきます。この記事で引用しているのは、令和3年10月8日の報道発表の記載です。
また、検討会のページには策定過程の資料が並んでおり、その中には案の段階の文書も含まれます。資料を確認するときは、案なのか最終版なのかを見分ける必要があります。
参照: 国土交通省「『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』について」、国土交通省「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」(確認日: 2026年9月9日)
価格への影響を、あらかじめ決めつけない
人の死に関する事案があった場合に価格がどうなるかは、この記事では扱いません。ガイドラインは告知の在り方についての整理であって、価格の目安を示すものではないためです。公的な資料に価格への影響を数値で示したものは、本記事の作成時点では参照していません。
実際の価格は、事案の内容だけでなく、立地、建物の状態、時期、買主の想定など多くの条件で変わります。あらかじめ大きく下がると決めて動くのも、影響がないと決めて動くのも、どちらも根拠のない前提から始めることになります。事実を整理したうえで、価格については実際に確認する、という順番が現実的です。
仲介と買取では、進み方と条件の見え方が変わる
売却の方法には、不動産会社に買主を探してもらう仲介と、不動産会社が買主になる買取があります。どちらの方法をとる場合でも、売主が知っている事実を告知書等に記載するという前提は変わりません。方法の違いは、告知の要否の違いではなく、進み方と条件の見え方の違いです。
| 見る項目 | 仲介で確認すること | 買取で確認すること |
|---|---|---|
| 知っている事実の扱い | 告知書等に記載する。宅地建物取引業者の告知の在り方はガイドラインの整理に沿う。 | 告知書等に記載する。記載の前提は仲介と変わらない。 |
| 買主 | 個人を含む買主を探す期間がある。 | 不動産会社が買主になる形をとる。 |
| 価格と条件 | 売出価格と成約価格が別に動く。 | 提示条件の内訳を確認する。 |
| 時間 | 販売期間、契約、引渡しまでの期間を見込む。 | 手続の進め方と時期を確認する。 |
表は売却方法の一般的な違いを Real Estate 7 Grid が整理したものです。どちらの方法が向いているかは、物件の状態と売主が置かれた条件によって変わります。両方の入口を見てから比べる、という進め方であれば、片方の情報だけで決めずに済みます。
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条件の見え方を比べる
仲介と買取では、価格と条件の見え方が変わる
どちらの方法でも、知っている事実を告知書に記載する前提は変わりません。そのうえで、価格と条件の見え方を比べます。ボタンからはリビンマッチ(リビン・テクノロジーズ株式会社)の外部サイトへ移動します。
リビンマッチの売却査定フォームへ進む リビンマッチの買取の入口を見るあわせて読む
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