転勤中に持ち家を貸す前に、定期借家と普通借家で戻れる条件を分ける
転勤が決まって持ち家をどうするかを考えるとき、貸すという選択肢はすぐに浮かびます。空き家にしておくより収入があり、家も傷みにくい。そこまでは想像がつきます。難しいのは、その先です。任期が延びたとき、あるいは想定より早く戻ることになったとき、自分の家に戻れるのかどうか。ここは気持ちの問題ではなく、契約の型と借地借家法の条文で枠が決まっています。
建物の賃貸借には、更新のある普通借家と、更新がないことを定められる定期借家という2つの型があります。どちらを選ぶかで、契約が終わるまでの道筋がまるごと変わります。この記事では、借地借家法の条文がそれぞれの型に何を求めているかを整理し、転勤で貸す立場から見たときにどこが分かれ目になるのかを扱います。
先に3つの言葉を分けておく
- 普通借家
- 期間の定めがあっても、当事者が所定の期間内に更新をしない旨の通知をしなければ、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされる型です(借地借家法第26条第1項)。
- 定期借家
- 期間の定めがある建物の賃貸借について、書面によって契約をするときに限り、契約の更新がないこととする旨を定めることができる型です(同法第38条第1項)。国土交通省は定期建物賃貸借を「契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく、確定的に賃貸借契約が終了する制度」と説明しています。
- 正当の事由
- 普通借家で賃貸人が更新拒絶の通知や解約の申入れをするときに求められる要件です(同法第28条)。条文の表記は「正当な事由」ではなく「正当の事由」です。
この3語を混ぜたまま検討すると、「貸したら戻れないと聞いた」「定期借家にすれば大丈夫と言われた」という伝聞だけが残ります。条文がどこで何を要求しているかを分けて読むと、確認すべきことが具体的になります。
普通借家は、通知をしないと同じ条件で更新したものとみなされる
借地借家法第26条第1項は次のように定めています。「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。」
読み落としやすいのはただし書です。更新したものとみなされた後の契約は、期間の定めがないものになります。2年契約がそのまま2年延長されるという形ではありません。期間の定めのない賃貸借に変わる、という結果です。
さらに第2項は、通知をした場合であっても、期間の満了後に賃借人が使用を継続する場合において賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときは、第1項と同様とすると定めています。通知を出したことで手続きが終わるわけではなく、満了後の状態に対しても対応が求められる構造です。
通知を出せば終わるのではなく、正当の事由の判断が入る
第28条は次のように定めています。「建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」括弧書きのとおり、この条でいう賃借人には転借人が含まれます。
考慮される要素が並列で列挙されている点が重要です。賃貸人が建物を使う必要があるかどうかだけで決まるのではなく、賃借人側の事情、従前の経過、利用状況、建物の現況、立退料などの申出が、まとめて考慮されます。転勤から戻るという事情がこの中でどう評価されるかは、個別の事案ごとの判断になります。この記事で結論を示すことはできません。
言い換えると、普通借家で貸すという判断は、戻る時期の見通しを自分の側だけで固定できる型ではありません。貸すこと自体は自由ですが、終わり方については条文が賃借人の側にも重い配慮を置いている、という前提で考えることになります。
条文確認: e-Gov法令検索「借地借家法(平成三年法律第九十号)」第26条・第28条(確認日: 2026年9月9日)
期間の下限にも条文がある
第29条第1項は「期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。」と定めています。短い期間を設定したつもりでも、期間の定めがない賃貸借として扱われる場合があるということです。第2項では、民法第604条の規定は建物の賃貸借には適用しないとされています。
転勤の任期が1年前後という場合、この条文は最初に確認する対象になります。ただし第29条第1項は普通借家についての規定です。定期借家における期間の扱いは第38条の構造の中で別に考える必要があるため、短い期間の契約を検討する場合は、契約の型と期間をセットで不動産会社に確認してください。
貸す前に手元で書き出しておく項目
契約の型を相談する前に、次の項目を紙に書き出しておくと、話が具体的になります。まだ決まっていない欄は空欄のままで構いません。空欄が残ること自体が、次に何を調べるかの手がかりになります。
- 赴任期間会社から示されている期間と、延長の可能性。何年何月に戻る想定かを、幅で書きます。
- 戻ったときの住まい方その家に住み直すのか、住み直さない可能性もあるのか。ここが曖昧だと契約の型を選べません。
- 住宅ローンの取扱い金融機関との契約上、賃貸に出す場合の取扱いがどうなっているか。契約書と金融機関に確認する事項です。
- 建物と設備の状態築年数、直近の修繕、給湯器やエアコンの設置年。貸す前後の費用に関わります。
- 管理を任せる範囲入居者募集、契約手続き、家賃の受領、入居中の対応、退去時の精算。どこまで自分でやるかを決めます。
この5項目のうち、上の2つが決まると契約の型の議論に進めます。下の3つは、貸すと決めた後に管理をどう組むかの材料です。
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契約の型を決める前に
貸す条件を整理してから、外部の入口を見る
契約の種類、期間、通知の時期を並べると、管理を任せる範囲も言葉にしやすくなります。ボタンからはリビンマッチ(リビン・テクノロジーズ株式会社)の外部サイトへ移動します。
リビンマッチの賃貸管理の入口を見る定期借家は、書面と事前説明が要件として置かれている
第38条第1項は「期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。」と定めています。第2文により、この型では期間を一年未満と定めても、第29条第1項の「期間の定めがない建物の賃貸借とみなす」という扱いにはなりません。第2項では、契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、書面によってされたものとみなすとされています。
第3項では、賃貸人があらかじめ賃借人に対し、契約の更新がなく期間の満了により賃貸借が終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならないとされています。第4項では、書面の交付に代えて、賃借人の承諾を得て電磁的方法により提供することができるとされています。
そして第5項は「建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。」と定めています。契約書の中に更新がない旨が書かれているかどうかとは別に、事前の説明という手続きが独立した要件として置かれている構造です。
実務では、この事前説明の書面は契約書とは別の書面として用意されます。誰がいつ説明したかが後から確認できる形になっているかは、貸主の立場でも見ておく価値のある点です。契約が有効かどうかの判断はこの記事では扱いません。手続きの構造として、書面と説明が別々に求められていることを押さえておく、という位置づけです。
期間が1年以上なら、満了前に終了の通知が要る
第38条第6項は次のように定めています。「第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。」
ここで注意したいのは、第26条第1項と同じ「一年前から六月前までの間」という言い回しが出てくることです。期間は同じでも役割はまったく違います。第26条は、通知をしないと更新したものとみなされるという規定。第38条第6項は、通知をしないと終了を賃借人に対抗できないという規定です。定期借家だから何もしなくても終わる、と考えていると、この通知が抜けます。
ただし、この項にはただし書が置かれています。通知期間に通知をしなかった場合でも、その後に賃借人へ終了する旨の通知をすれば、その通知の日から六月を経過した後は終了を対抗できる、という内容です。つまり条文の構造は「通知が抜けたら終われない」ではなく、「通知が抜けると、その時点では終了を対抗できず、あらためて通知したうえで六月を待つことになる」というものです。契約更新の有無ではなく、明渡しの時期がずれるという形で影響が出ます。この記事は個別の契約への当てはめは扱いませんが、通知の時期を管理する意味はここにあります。
| 比べる点 | 普通借家 | 定期借家 |
|---|---|---|
| 更新の扱い | 通知がなければ従前と同一の条件で更新したものとみなされる(26条1項)。更新後の期間は定めがないものとなる。 | 書面によって契約をするときに限り、更新がないこととする旨を定めることができる(38条1項)。 |
| 契約前の手続き | 条文上、更新がない旨の事前説明の規定は置かれていない。 | 賃貸人はあらかじめ書面を交付して説明する(38条3項)。説明しなかったときは更新がない旨の定めは無効(38条5項)。 |
| 満了前の通知 | 更新拒絶の通知は満了の1年前から6月前までの間(26条1項)。 | 期間が1年以上なら、満了の1年前から6月前までの間に終了する旨の通知(38条6項)。 |
| 賃貸人側に求められる要件 | 更新拒絶の通知や解約の申入れには正当の事由が求められる(28条)。 | 条文上、期間満了による終了について正当の事由の規定は置かれていない。 |
表は借地借家法第26条、第28条、第38条を基に Real Estate 7 Grid が作成しました。どちらの型が貸主に向くかを一般化することはできません。任期の見通し、戻ったときの住まい方、賃料の水準など、条件によって意味が変わるためです。
第38条第7項の中途解約権は、借りる側の権利である
転勤で検索していると、第38条第7項に「転勤」という語が出てくることに気づきます。ここは読み違えやすい箇所です。
第7項は「第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。」と定めています。床面積の要件が括弧書きで限定されていること、そして申入れの日から一月を経過することで終了することまでが、この項に書かれています。
主語は建物の賃借人です。つまり、借りている人が転勤などの事情で住み続けられなくなった場合の中途解約権であって、貸している側が早く戻りたいときに使える規定ではありません。第8項では、第6項と第7項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは無効とすると定められています。
貸主の立場から見ると、定期借家で期間を決めても、賃借人側の事情によって期間の途中で終わる可能性がある、という向きの規定です。期間を固定できるのは終了の側であって、途中の解約まで固定されるわけではない、と読み分けておきます。
賃料を動かす特約があると、増減の請求ができなくなる
第38条第9項は、借賃の改定に係る特約がある場合には、第32条の規定は適用しないと定めています。第32条は借賃の増減を請求できる権利に関する規定です。契約で賃料の改定方法を決めておくと、その方法に従うことになり、増減の請求という別ルートは使えなくなる、という関係になります。
貸している期間中に周辺の相場が動いたとき、契約書のどこを見れば賃料の扱いが分かるのか。契約前にここを確認しておくと、後から条件を見直す余地がどれくらいあるかを把握できます。
条文確認: e-Gov法令検索「借地借家法(平成三年法律第九十号)」第29条・第38条(確認日: 2026年9月9日)/制度説明: 国土交通省 住宅局「定期建物賃貸借」(確認日: 2026年9月9日)
古い解説を読むときは、項番号のずれに注意する
第38条は、書面に関する規定が加わったことで項の並びが動いています。電磁的記録に関する第2項と、電磁的方法による提供に関する第4項が入ったため、事前説明、無効、終了通知、中途解約の各規定の項番号が、以前の資料とずれています。
古い解説では、事前説明が第2項、説明がないときの無効が第3項、終了通知が第4項、中途解約が第5項として書かれています。この記事で示した番号は、2026年9月9日時点でe-Gov法令検索に掲載されている条文に基づくものです。手元の資料と番号が合わないときは、まず版を疑ってください。
国土交通省の資料は、制度の位置づけを確認するのに使う
国土交通省 住宅局は、定期建物賃貸借について「契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく、確定的に賃貸借契約が終了する制度」と説明しています。同省は定期建物賃貸借に関するQ&Aや、定期賃貸住宅標準契約書に関するページも公開しています。
公的な資料は制度の位置づけと標準的な様式を確認する用途に向いています。一方、各条文が誰に何を求めているかは、借地借家法の条文そのものを見る方が正確です。両方を行き来しながら読むと、契約書の条項が何に対応しているかが見えてきます。
貸す場合と売る場合を、同じ項目で並べてみる
契約の型の話をしていると、貸すことが前提になりがちです。ただ転勤の期間が読めない場合、判断の材料として売却の場合も同じ紙に置いておくと、比べ方が変わります。以下は、どちらの案でも確認する項目です。
| 見る項目 | 貸す場合に確認すること | 売る場合に確認すること |
|---|---|---|
| 終わり方 | 契約の型、期間、通知の時期。普通借家なら更新拒絶の要件も含めて見る。 | 引渡しの時期。赴任の日程と合うかどうか。 |
| 最初に出るお金 | 原状回復、設備の更新、募集にかかる費用。 | 売却にかかる諸費用、残置物の整理。 |
| 続く負担 | 管理、修繕、空室、固定資産税、ローンの返済。 | 引渡し後は保有に伴う負担が終わる。 |
| 戻る想定 | 戻る時期と契約の満了時期がどれだけずれるか。 | 戻ったときの住まいをどう確保するか。 |
表の左側は不動産会社や管理会社に聞けば埋まります。右側は価格の見込みが分からないと埋まりません。片側だけが埋まった表で判断すると、埋まっている側の話に引っ張られます。
フォームへ進む前の持ち家メモ
- 物件所在地、土地と建物の面積、間取り、築年、直近の修繕履歴。
- 時期赴任日、戻る想定時期、動かせない予定。
- 借入残高、返済期間、賃貸に出す場合の取扱い。
- 契約の型普通借家と定期借家のどちらを検討しているか。まだ決めていない場合はそのまま。
貸す場合の相談でも、価格の見込みを確認する場合でも、この4つがそろっていると話が早く進みます。契約の型が決まっていないこと自体は問題になりません。決まっていないと伝えるために、決まっていることを先に書き出しておく、という順番です。
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戻る時期と並べて
貸す場合と売る場合を、同じ紙に置く
転勤の期間が読めないときは、貸したときの手取りと、売ったときの価格帯を並べて比べます。ボタンからはリビンマッチ(リビン・テクノロジーズ株式会社)の外部サイトへ移動します。
リビンマッチの売却査定フォームへ進むあわせて読む
- 転勤で持ち家は売る?貸す?期限があるときに見る順番赴任日から逆算して、売る案と貸す案を数字で並べる進め方をまとめています。
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