退去時の原状回復、オーナーが負担する部分を国交省ガイドラインで確かめる

家具のない室内。白い壁と引き戸の収納、窓、木目のフローリング
写真はイメージです。Photo: Alex Tyson / Unsplash(Unsplash License)

入居者が退去したあと、オーナーの手元には管理会社から原状回復の見積もりや精算書が届きます。壁のクロスを張り替える、床を補修する、設備を交換する。その費用のうち、どこまでを入居者に請求し、どこからをオーナーが負担するのかは、毎回の退去で繰り返し出てくる論点です。

この記事では、国土交通省の原状回復ガイドラインと、その参考資料(令和5年3月)に載っている考え方と計算例をもとに、オーナー側から見た費用負担の整理と、管理会社と事前に確認しておきたいことをまとめます。個別の精算が妥当かどうかを判断するものではありません。

原状回復の相談は、国民生活センターに年1万件を超えて寄せられている

独立行政法人国民生活センターは、全国の消費生活センター等に寄せられた相談を集めたデータベース(PIO-NET)の件数を公表しています。賃貸住宅の原状回復トラブルに関する相談は、2023年度が13,273件、2024年度が13,312件、2025年度が14,711件でした。

原状回復トラブルの相談件数 2023年度13,273件、2024年度13,312件、2025年度14,711件 0 8,000 16,000 件 13,273 13,312 14,711 2023年度 2024年度 2025年度
PIO-NETに登録された賃貸住宅の原状回復トラブルの相談件数(2026年5月31日現在の集計。消費生活センター等からの経由相談は含まない。年度途中の2026年度は図に入れていない)。出典: 独立行政法人国民生活センター『賃貸住宅の原状回復トラブル』(ページ更新日 2026年7月31日。確認日: 2026年9月29日)を基に Real Estate 7 Grid が作成

2026年度の値も掲載されていますが、2026年5月31日現在の年度途中の集計(1,846件)です。1年分そろった年度と並べると誤解を招くため、この記事では増減の比較に使いません。

国民生活センターのページは、主に入居者側から寄せられた相談を扱っています。オーナーにとっては、退去精算の説明が入居者にどう受け止められているかを知る手がかりになります。精算の説明が足りないと、金額そのものより「なぜこの負担なのか」が争点になりやすい、という前提で読むとよいと思います。

国土交通省の参考資料も、冒頭で、賃貸住宅のトラブルに関する消費生活センターへの相談は毎年3万〜4万件程度あり、そのうち敷金と原状回復に関するものが3〜4割程度を占めると説明しています。集計の範囲が異なるため、国民生活センターの件数とは直接比べません。

出典: 国土交通省住宅局『「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料』(令和5年3月。確認日: 2026年9月29日)

ガイドラインは、使用を強制するものではない一般的な基準

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、平成23年8月に再改訂された版が国土交通省のページに掲載されています。参考資料では、ガイドラインは法令のように使用を強制するものではなく、トラブルを未然に防ぐための一般的な基準を示したものだと位置づけています。

あわせて参考資料は、原状回復の費用負担は最終的には契約内容や物件の使用状況などによって個別に判断・決定されるものだという趣旨も示しています。ガイドラインの考え方を知っていても、個々の精算の結論がそこから自動的に決まるわけではありません。オーナーにとってガイドラインは、請求の根拠を説明するときの共通の物差しとして使うのが実際的です。

出典: 国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』掲載ページ(再改訂版 平成23年8月。確認日: 2026年9月29日)

経年変化と通常損耗は、入居者の原状回復義務の対象外

民法では、賃貸借の終了時に借主が負う原状回復義務について、通常の使用によって生じた損耗や経年変化は含まれないという考え方が条文で示されました(民法第621条)。参考資料もこの条文を取り上げ、ガイドラインの考え方と同じ方向の整理として説明しています。

言い換えると、日焼けによるクロスの変色や、家具を置いていた跡のように、普通に暮らしていれば生じる変化はオーナー側の負担として考えるのが基本です。一方、入居者の故意・過失や、通常とはいえない使い方による傷や汚れは、入居者に負担を求める対象になりえます。どちらに当たるかは、入居時と退去時の状態をどれだけ記録で示せるかに左右されます。

条文そのものの文言は、e-Gov法令検索の民法第621条で確認してください。この記事では要旨の紹介にとどめます。

経過年数で負担割合が下がる:クロス6年、木造22年、RC造47年

入居者に負担を求める場合でも、設備や内装には耐用年数があり、年数が経つほど価値は下がっています。ガイドラインでは、入居者の負担は経過年数に応じて小さくなるという考え方をとり、参考資料には耐用年数の目安が抜粋されています。

対象 耐用年数の目安
クロス、カーペット、クッションフロア、畳床6年
流し台5年
冷暖房機器、ガス機器6年
便器、洗面台、金属製器具15年
建物(木造)22年
建物(RC造・SRC造)47年

たとえばクロスは6年が目安です。入居期間が長い部屋の退去では、入居者の過失による汚れであっても、請求できる金額は張り替え費用の全額にはならないのが通常です。オーナーとしては「張り替えにいくらかかったか」だけでなく、「その部位は何年使われてきたか」を精算書で説明できるかが大切になります。

出典: 国土交通省住宅局『「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料』(令和5年3月、p.4 耐用年数の表。確認日: 2026年9月29日)

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退去精算の進め方を比べる

管理委託の範囲に、退去精算が含まれるかを見る

退去立会い、見積もり、精算書の作成を管理会社がどこまで担うかは、委託内容によって変わります。今の条件と比べる材料として、外部の賃貸管理の入口で確認できます。ボタンからはリビンマッチ(リビン・テクノロジーズ株式会社)の外部サイトへ移動します。

リビンマッチの賃貸管理の入口を見る

国交省の計算例では、修繕費用26万6千円のうち賃貸人負担は17万3,830円

参考資料には、考え方を具体的な数字に当てはめたケーススタディが載っています。これは国土交通省の資料上の例示で、実在の物件や精算の事例ではありません。資料自体も、使っている工事単価は事例を検討するために設定したものだと断っています。

設定は、築16年のRC造マンション、入居期間4年、敷金120,000円です。修繕費用の合計は266,000円で、そのうち賃借人の負担は92,170円、賃貸人の負担は173,830円とされています。敷金から賃借人負担分を差し引いた27,830円が返還される計算です。

国交省資料の計算例 修繕費用計266,000円のうち賃借人負担92,170円、賃貸人負担173,830円 修繕費用計 266,000円 賃借人負担 92,170円 賃貸人負担 173,830円
国交省参考資料のケーススタディ(RC造マンション築16年、入居4年、敷金120,000円の想定。工事単価は事例検討用の設定で、実在の事例ではない)における修繕費用の負担区分。出典: 国土交通省住宅局『「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料』(令和5年3月、pp.22-24。確認日: 2026年9月29日)を基に Real Estate 7 Grid が作成

この例で目を引くのは、修繕費用の半分以上がオーナー側の負担になっている点です。経年変化や通常損耗に当たる部分と、経過年数で価値が下がった部分が差し引かれると、入居者に求められる金額は想像より小さくなることがあります。退去のたびの修繕費は、入居者からの回収ではなく賃貸経営の費用として見込んでおくほうが、収支の見通しは立てやすくなります。

この計算例を自分の物件に当てはめるときは、金額よりも手順を参考にするのが実際的です。部位ごとに、経年変化・通常損耗に当たるかどうかを分け、入居者の負担になりうる部分については、その部位の耐用年数と使われてきた年数から負担の割合を考える。この順番で精算書が組み立てられているかを見ると、管理会社から届く見積もりの読み方が変わります。工事単価は物件や地域、時期によって異なるため、資料の単価を相場として使うことはできません。

管理会社は、入居時・退去時の確認をどうしているか

参考資料には、令和4年に管理会社を対象に行ったアンケートの結果も載っています。対象は日本賃貸住宅管理協会と全国賃貸不動産管理業協会の会員事業者で、回答は691件です。全国の管理会社全体の実態を表すものではない点に注意が必要です。

  • 退去時の点検入居者の立会いのもとで工事が必要な部位を伝え、後日精算書等を送るという回答が57.5%。立会いを行わずに精算書等を後日送るという回答は7.4%でした。
  • 入居時の確認物件の状況は把握しているが、入居者との共有は行っていないという回答が26.6%ありました。
  • 揉めやすい部位回答437件のうち、特にトラブルになりやすい部位としてクロスを挙げたのが73.5%、フローリングが52.4%でした。
  • 解決の方法同じく437件のうち、話し合いが96.1%、少額訴訟が10.5%、ADR(裁判外紛争解決手続)が3.2%でした(複数回答)。

入居時の状態を入居者と共有していないと、退去時に「最初からあった傷かどうか」を示す材料が弱くなります。クロスやフローリングのように揉めやすい部位ほど、入居時の写真やチェックリストが後から効いてきます。

出典: 国土交通省住宅局『「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料』(令和5年3月、pp.9・11・13・25。令和4年アンケート。確認日: 2026年9月29日)

管理委託契約で確認しておくこと

退去精算は、実務の多くを管理会社が担います。オーナーが精算書を受け取ってから疑問を持つより、委託契約の段階で進め方を確かめておくほうが、入居者への説明もそろいます。

  • 退去立会いの方法入居者の立会いを求めるか、立会いの場で何を伝え、何を後日の精算書に回すか。
  • 精算書の内訳部位ごとに、入居者負担とオーナー負担の区分、経過年数の考え方、単価と数量が分かる形になっているか。
  • 設備・内装の記録クロスの張り替えや設備交換の時期を記録しているか。経過年数の計算はこの記録が前提になります。
  • 入居時の状態共有入居時に写真やチェックリストで状態を記録し、入居者と共有しているか。
  • 特約の説明賃貸借契約に原状回復の特約を入れている場合、契約時に入居者へどう説明しているか。特約がどこまで有効かは個別の事情で判断されるため、ここでは結論を示しません。

入居者との話し合いで解決しない場合は、消費生活センター、法テラス、弁護士などの窓口があります。個別の精算の妥当性や特約の扱いは、こうした専門の窓口に確認してください。

オーナーが管理会社に任せきりにせず、年に一度でも退去精算の実績を見返しておくと、どの部位で費用がかさみやすいか、どの説明で入居者と話がこじれやすいかが見えてきます。その傾向が分かれば、入居時の記録の取り方や、設備の交換時期の計画に反映できます。

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持ち続けるかを考える

修繕費の見込みと並べて、売却価格も確認しておく

退去のたびの修繕費が収支に重いと感じるなら、賃貸を続ける前提そのものを数字で見直す材料として、売却した場合の価格帯を外部の査定サービスで確認する方法があります。ボタンからはリビンマッチ(リビン・テクノロジーズ株式会社)の外部サイトへ移動します。

リビンマッチの売却査定フォームへ進む

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