賃貸中の戸建てを売るなら、入居者がいるまま?空室にしてから?オーナーが確かめる順番
転勤で貸した家、相続して人に貸している実家、投資で持っている戸建て。管理の手間や修繕の負担、家族の事情が重なって「そろそろ売ろうか」と考え始めたとき、多くの方がつまずくのが「入居者がいるのに売れるのか」という点です。結論から言うと、入居者がいても売れます。民法605条の2により、不動産を売れば賃貸人(貸主)としての立場は、原則としてそのまま買主へ移るからです。
ただし、入居者がいるまま売る方法(オーナーチェンジ)と、退去を待って空室にしてから売る方法とでは、買い手も、価格の見られ方も、使える税の特例も変わります。どちらが自分に合うかは、迷いを言葉にして、入居中と空室の二つの想定で今の価格を並べて見ないと決められません。この記事では、法律と税の一次情報をもとに、売り方の分かれ目と、確かめる順番を整理します。
「入居者がいるから売れない」ではない——まず迷いを3つに分ける
賃貸中の家を売ろうか迷うとき、不安は混ざり合っています。混ざったままだと「とりあえず退去を待とう」と判断を先延ばしにしがちです。まずは次の3つに分けてみてください。分けると、いま調べるべきことと、後で決めればよいことが見えてきます。
- 売れるのか入居者がいる状態で買い手がつくのか、退去まで売れないのか、という不安です。これは法律の問題なので、後の章で先に片づけます。
- 手取りはどうなるか入居中に売るのと空室で売るのとで、価格や税金がどう違い、手元にいくら残るのか、という資産の不安です。
- 入居者や家族への影響住んでいる人に迷惑をかけないか、共有名義なら家族の同意が要るのではないか、という人への気づかいです。
3つのうち「売れるのか」は事実で決まります。「手取り」は価格と税を調べればおよその見当がつきます。残るのは「人への影響」で、ここは家族や状況によって答えが違う部分です。先に事実と数字をそろえておくと、気づかいの部分だけに落ち着いて向き合えます。売る・持ち続けるをいま決める必要はなく、まず材料を集める段階だと考えてください。
入居者がいても売れる——賃貸人の地位は買主に引き継がれる
賃貸中の不動産を売っても、入居者に出て行ってもらう必要はありません。民法605条の2第1項は、対抗要件を備えた賃貸借の目的物である不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は譲受人(買主)に移転すると定めています。つまり、家賃を受け取る権利も、建物を貸し続ける義務も、売買と同時に買主へ引き継がれます。入居者から見れば、大家が替わるだけで、住み続ける権利は変わりません。
ここでいう「対抗要件」は、建物賃貸借では登記ではなく引渡しです。借地借家法31条は、建物の賃貸借はその登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対して効力を生ずると定めています。すでに入居者が住んで鍵を受け取っている(引渡しを受けている)状態なら、新しい所有者にも賃貸借を主張できるということです。だから買主は、入居者ごと建物を引き継ぐ前提で検討します。
このように入居者がいるまま所有者だけが替わる売り方を、実務ではオーナーチェンジと呼びます。「退去を待たないと売れない」というのは誤解で、売り方は最初から二通りあると考えてよいわけです。
出典: e-Gov法令検索『民法』第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)、同『借地借家法』第31条(建物賃貸借の対抗力)(確認日: 2026年10月30日)
オーナーチェンジと実需向けで、買い手と価格の見方が違う
売れる・売れないがはっきりしたら、次は価格の見られ方です。ここが入居中と空室で大きく分かれます。入居者がいるまま売る場合、主な買い手は賃料収入を目的とする投資家です。投資家は、いまの家賃に対して価格が何パーセントの利回りになるか、という収益の視点で価格を見ます。一方、空室にしてから売る場合は、自分で住みたい人(実需)も買い手に加わり、立地・間取り・築年数・内装といった住み心地の視点で価格を見ます。
どちらの価格が高くなるかは物件によって逆転します。家賃が相場より高めに取れている物件は投資家に評価されやすく、入居中のほうが有利なこともあります。逆に、住宅地で自分好みに住みたい需要が強い戸建ては、空室にして実需へ売るほうが高くなる場合があります。だからこそ、思い込みで片方に決めず、両方の想定で価格を並べて見ることが出発点になります。
| 項目 | 入居者がいるまま(オーナーチェンジ) | 空室にして売る |
|---|---|---|
| 主な買い手 | 賃料収入を目的とする投資家 | 自分で住む人(実需)+投資家 |
| 価格の見方 | 家賃からみた利回り(収益の視点) | 立地・間取り・築年数など(住み心地の視点) |
| 室内の内覧 | 入居者の生活があり原則できない | 空室なので内覧しやすい |
| 売るまでの時間 | 退去を待たずすぐ動ける | 退去・原状回復の期間が必要 |
| 空室期間の負担 | 家賃が入り続ける | 退去後は家賃が止まり固定費が残る |
表のとおり、どちらにも長所と短所があります。入居中はすぐ動けて家賃も入り続けますが、室内を見せられないぶん買い手が限られます。空室は買い手が広がる代わりに、退去と原状回復の時間、その間の家賃ゼロと固定費を負担します。損得は物件ごとに違うので、次は実際の価格を知る段階です。
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二つの想定で価格を見る
入居中と空室、どちらの売り方が合うか価格から考える
どちらの売り方が向くかは物件によって変わります。まずは今の価格帯を知ると、売り方の比較ができます。査定の依頼は無料で、依頼したからといって売る義務はありません。複数の会社に聞いて見比べると、価格の根拠の違いも分かります。ボタンからはリビンマッチ(リビン・テクノロジーズ株式会社)の外部サイトへ移動します。
リビンマッチの売却査定フォームへ進む入居者がいるまま売るとき、買主に引き継がれるもの
入居者がいるまま売る場合、買主が引き継ぐのは家賃を受け取る権利だけではありません。民法605条の2第4項は、賃貸人たる地位が買主に移転したときは、民法608条による費用の償還に係る債務と、民法622条の2第1項に規定する敷金の返還に係る債務を、買主が承継すると定めています。預かっている敷金の返還義務も、必要費・有益費の精算義務も、所有者が替われば買主へ移るということです。
実務では、売買のときに敷金の相当額を売買代金から差し引くなどして、買主へ引き継ぎます。手元に残っている敷金をそのまま使ってしまっていると、精算で思わぬ持ち出しになります。また、賃貸借契約の内容(家賃、更新の条件、ペットや駐車場などの特約、更新料や保証会社の扱い)も、そのまま買主に引き継がれます。契約書や覚書、更新の履歴、滞納の有無がそろっているほど、買主は安心して価格を出せます。
なお、民法605条の2第3項は、賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗するには、所有権の移転登記が必要だと定めています。売買では所有権移転登記を行うのが通常なので、登記まで済ませて初めて、買主が新しい大家として家賃を請求できる形が整います。
出典: e-Gov法令検索『民法』第605条の2(敷金・費用償還に係る債務の承継、所有権移転登記による対抗)(確認日: 2026年10月30日)
空室にしてから売る場合——退去は待つのが基本
空室にして実需へ売りたい場合に気をつけたいのは、入居者に自由に出て行ってもらえるわけではない点です。普通借家契約では、貸主からの更新拒絶や解約の申入れには、借地借家法28条の「正当の事由」が必要です。同条は、貸主・借主が建物の使用を必要とする事情のほか、賃貸借の従前の経過、建物の利用状況と現況、立退料などの財産上の給付の申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ更新拒絶や解約申入れはできない、と定めています。「売りたいから」という理由だけで退去を求めることはできません。
したがって、普通借家で空室化を前提にするなら、入居者が自然に退去するタイミングを待つのが基本です。一方、契約が定期借家であれば事情は変わります。借地借家法38条は、公正証書による等の書面で契約するときに限り、契約の更新がないこととする旨を定められるとしています。定期借家は契約期間の満了で終了するため、満了時期が売却の見通しに結びつきます。まず自分の契約が普通借家か定期借家かを確認することが、空室売却を考える前提になります。
退去後は、原状回復や簡単な補修を行ってから売り出すのが一般的です。オーナーが負担する原状回復の範囲は、国土交通省のガイドラインで線引きが示されています。費用と期間の見積もりは、空室売却の損得を考えるうえで欠かせません。
出典: e-Gov法令検索『借地借家法』第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)・第38条(定期建物賃貸借)(確認日: 2026年10月30日)
税金の分かれ目——元自宅なら3,000万円控除、投資用は対象外
手取りを左右するもう一つの要素が税金です。売って利益(譲渡所得)が出ると、所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。税率は所有期間で変わり、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得で合計20.315%、5年以下なら短期譲渡所得で合計39.63%です。相続で引き継いだ家は、原則として亡くなった方の取得時期を引き継ぐため、長期になっていることが多くあります。
もう一つ大きいのが、マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除です。国税庁タックスアンサーNo.3302によると、この特例は「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に売れば使え、しかも住まなくなった後は、その家屋をどのような用途に使用してもかまわないとされています。つまり、自分が住んでいた家を転勤などで人に貸していた場合でも、住まなくなってから3年目の年末までに売れば、貸家にしていても控除の対象になり得ます。元自宅を貸しているケースでは、この期限が売り時を考えるうえで重要になります。
一方、最初から投資目的で買って人に貸してきた戸建て(自分が住んだことのない物件)は、マイホームではないため、この3,000万円控除は使えません。同じ「賃貸中の戸建て」でも、元自宅か純然たる投資用かで税の扱いが分かれる点に注意してください。なお、配偶者や親子など特別の関係がある人への売却は、3,000万円控除の対象外です。実際の適用は個別の事情で変わるため、具体的には税務署や税理士に確認してください。
出典: 国税庁タックスアンサーNo.3302(マイホームを売ったときの特例)(令和8年4月1日現在法令等。確認日: 2026年10月30日)
売る前に、入居中と空室の二つの想定で価格を見ておく
ここまでを踏まえると、賃貸中の戸建てを売るかどうかの判断は、入居中(オーナーチェンジ)と空室化後の二つの想定で、いまの価格帯を並べて見るところから始まります。入居中の想定では、いまの家賃と契約条件を前提にした価格になります。空室の想定では、退去・原状回復の費用と期間を差し引いたうえでの価格になります。この二つを並べると、どちらの売り方が自分に向いているか、そもそも売らずに貸し続けるほうがよいかまで、数字で比べられます。
査定の依頼は無料で、依頼したからといって売らなければならない義務はありません。査定はあくまで現時点の価格の見立てであり、売り出すかどうかは結果を見てから決めればよいものです。会社によって得意な買い手(投資家向けか実需向けか)や価格の根拠が違うため、複数の会社に同じ条件で聞いて見比べると、金額だけでなく「なぜその価格か」の説明の差も見えてきます。入居中であることや、元自宅かどうかも、最初に伝えておくと精度が上がります。
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まず価格を知る
入居中のまま、今の価格を確かめてから売り方を決める
売る・貸し続けるを決める前に、今いくらで売れそうかを知っておくと判断が落ち着きます。査定は無料で、依頼しても売る義務はありません。入居中であることを伝えれば、その前提での価格も確認できます。複数社を見比べて根拠の違いを確かめてください。ボタンからはリビンマッチ(リビン・テクノロジーズ株式会社)の外部サイトへ移動します。
リビンマッチの売却査定フォームへ進む売る前にそろえる手元メモ
- 契約の種類普通借家か定期借家かを契約書で確認します。定期借家なら満了時期、普通借家なら更新の履歴を控えます。
- 家賃と敷金現在の家賃、更新料や特約、預かっている敷金の額を整理します。敷金返還義務は買主へ引き継がれます。
- 所有期間取得した時期を確認し、売る年の1月1日時点で5年を超えるかを数えます。相続なら被相続人の取得時期を引き継ぎます。
- 元自宅かどうか自分が住んでいた家を貸しているなら、住まなくなった日と、3年目の年末の期限を控えます。
- 退去時の費用感空室売却を考えるなら、原状回復や補修の費用と期間、空室期間の固定費を見積もります。
このメモがあると、査定を依頼するときに入居中・空室の二つの前提を正確に伝えられ、価格の比較がしやすくなります。売るか貸し続けるかは、二つの価格と税の見当がそろってから、家族とも落ち着いて話し合えます。
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- 退去時の原状回復、オーナーが負担する部分をガイドラインで確かめる空室にして売る場合に関わる、退去時の原状回復の線引きを国土交通省のガイドラインで整理しています。
- 賃貸管理会社を変える前に、手数料より先に見る数字貸し続ける選択肢を見直すときに、管理の何を確認するかをまとめています。
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